理想の恋人って!?
「明梨ちゃん、すっかり大人っぽくなったね」
「え、へへ、そうですか?」

 憧れていた大人の男性にそう言われて、悪い気はしない。というか、むしろ嬉しい。

「こんなふうに変わるなんて思わなかったなぁ」

 誠一さんが膝に片肘をついて頬を支えながら私を見た。斜め下から見上げてくる眼差しが、とても大人っぽい。彼の疲れた表情が退廃的にすら見える。

 誠一さんもこんな顔をするんだ。いかにも大人の男性という感じ。そうだよね、もう二十六歳だもん。好きになったときに感じた誠一さんとの年の差、経験の差、時間の差は、今でも変わらない気がする。それはそうだ。私が大人になるために過ごしたのと同じだけの時間、誠一さんも経験を積んでいるんだから。

 一方、ローテーブルの向こう側に座っている晃一は、誠一さんよりも肩幅が広いし、顎もしっかりしている。爽やかスポーツ青年といった印象だ。けれど、その爽やか青年は見かけとは裏腹にイヤなことを言うのだ。

「馬子にも衣装ってやつだな」
「何よ、〝なかなか似合ってる〟とか〝かわいい〟とか言ってたのはどこの誰よ」

 待ち合わせた後に車の中で晃一が言っていたセリフを引き合いに出すと、晃一がローテーブルに右肘をついて口元を覆った。

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