約束の暑中見舞い(5p)
私はあっけにとられる。

「なに言ってんの。調子にのりすぎ」
「だよな。・・ごめん」

和己くんはふてくされたようにちょっと口をとがらせた。

私は和己くんのこの顔に弱い。
昔から何度もだまされてきた。

「仕方ないなぁ。あそこの・・シロクマの前までおんぶしてくれたら、いいよ。私がキスしてあげる」
「本当に?」

私はうなずいた。
性懲りもなくまた変な約束。

でも、昔は何かといえば和己くんにおんぶさせていた。
そういえば、おんぶなんて何年ぶりだろう。

私は和己くんの背中に飛び乗った。

「重てぇ」
「ひどーい」

おりようとする私を和己くんは放さない。

「いくぞぉ」

和己くんは私をおぶったまま走り出した。

「いけぇ」

大きく揺れながら、私は叫んでいた。
和己くんの激しい息づかいが背中を通して伝わってくる。

「いけぇ」

倒れ込むようにシロクマの前までたどりついた。
私は崩れ落ちるように和己くんの背中から離れた。

和己くんは膝に手をあてて肩で大きく息をしている。
私はスカートの裾を直しながら、和己くんの様子をうかがっていた。

(あー、勢いで言っちゃったけど、どうしよう)

 和己くんは腰をかがめたまま、下から見上げるようににっこり笑った。

(難しく考えるから変なのよね。ただほっぺにチュするだけじゃない。幼稚園のころにはよくやっていたし)

 
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