WORKER HOLiC
 相当変な顔をしていたのか、隣に座っていたグラフィックス・チーフの大槻さんが私の脇をつつく。

「これが有野さんのやり方だから。意見があるなら言えばいいわよ」

 ……そう言われましても。

 特に意見はありません。

 ……なんて雰囲気じゃないわよね。

 手元に渡された雪の写真を眺めながら、ふっと微笑んだ。

 あの子ったら、興味あるもの全部録ってるんじゃないかしら。

 ホテルの内装、客室、何故かエレベーターに天井。

 隠れんぼをする子供の視線みたい。

 ワクワクして、目の前にあるもの全てを楽しもうとでも言うような……

 でも時折、ふっと大人の視線に変わる。

「とても楽しかったんでしょうね」

「は!?」

 驚いた声に慌てて顔を上げた。

 有野さんは飄々としているけど、他のメンバーはびっくり!みたいに目を丸くして驚いている。

「え……あの」

「旅の思い出か?」

「ああ~……写真って、そういう効果があるかもね~」

「あ。でもコンセプトには合ってるんじゃない? 宿泊ホテルの思い出」

「スパが全面じゃなくて思い出が全面?」

「スパが全てじゃないし。だいたいスパとか温泉なんて老舗にゃ勝てないよ」

「あ~……じゃあさ」

 何故か話はどんどん進んでいって、キョロキョロしている間にもレイアウトが決まっていく。

 ミーティングが終わる頃には、撮影のし直しというところまで話が決まっていて、ボンヤリしていたら大槻さんに肩を叩かれていた。

「安心した。じゃ、こっちは任せるから、存分に腕を振るってね」

 え……

 何の腕ですか?

「加倉井は発案者だからな。最後まで付き合ってあげなよ?」

 は、発案者?

「わがまま有野さんと頑張れ」

 は、はぁ?

「と、いうわけで俺のわがまま……て言うか宇津木のわがままに最後まで付き合ってね。加倉井さん」

 書類を取り纏めながら微笑んだ有野さんに、思い切りしかめ面をする。

 ……なんか、罠にかかった気分なのは何故なんでしょうか?
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