WORKER HOLiC

:Ⅱ

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 まるで、毎日が戦争だわ。

 就業中はさすがに大人しい有野さんと私の攻防は、澤井さん達の協力を得て堪えている感じ。

「なんで逃げ回るかねぇ」

 協力してくれながら、呆れ顔のグラフィックスの面々にムスッとした。

「軽い男は嫌いですから」

「軽くないじゃない」

 澤井さんの言葉に、頷く後輩達。

「まさか、見た目が軽いから……とか言わないわよね?」

「……違います」

「Tシャツジーパンくらいなら、クリエイターのだいたいがそうでしょ。加倉井さんみたいにスーツな方が珍しいの」

「だから、違います」

 何も見た目だけで言ってるわけじゃないのよ。

 だけど、有野さんとのあれやこれやの出来事を、おおっぴらに言うわけにもいかないのよ。

「一途じゃないのぉ。最近じゃ加倉井さんにしか話かけてないわよ?」

「それは、今回手掛けているD社のグラフィックスを私がやってるからです」

「ああ。有野さんが受け持ちの……って、違うわよ。私が言いたいのはね……」

「あ。先輩。終業2分前です」

 後輩達の声に、ギクッと指が滑った。

 急いで画像をROMに保存して、それを素早く抜くとバックにしまってパソコンの電源を落とす。

 ちらっと時計を見ると1分前。

 澤井さんはヤレヤレと肩を竦めつつ、書類を片手に有野さんの方に歩いて行った。

 いつも足止め有難うございます。

 終業になってカードリーダー待ちの列に後輩達と並び、サッと社員証を通すとオフィスを出た。

 さすがに誰か他に同僚がいる時は、有野さんも個人的な事は言わない。

 気がついたのは先週の事で、それまでは仕事が終わると食事に誘われて困り果てていた。

「ストーカー並ね」

 エレベーター待ちでポツリと呟くと、後輩達が顔を見合わせた。

「マネージャーがするのって、食事に誘うくらいじゃないんですか?」

「さすがに待ち伏せとか、不法侵入とかしてるなら、警察に行った方がいいんじゃないですか?」

 あ……。

「さすがにそこまではしつこくないわ」

「じゃ、毎日電話が来るとか、メールが来るとか?」

「マネージャーはフロアの皆の連絡先を知ってますから」

 ああ、成る程。

 それで私のメールも知ってた訳ね。

 やっぱり職権乱用じゃないの。
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