恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

「あの。戻りました。…………お菓子買ってきたので、今お茶淹れますね」

手に持っていた洋菓子店の紙袋を軽く持ち上げてすぐにその場から離れようとすると、鋭い声で「千草」と呼び止められる。彼はなぜか別れを突き付けてきた後も、変わらずに私のことを名前で呼んでいた。

「はい……?」

何か雑用でも頼まれるのかと思っていると健吾はいきなり切り出してきた。

「おまえさ。あの男と付き合ってるのか?」
「…………あの男って……」

健吾は小馬鹿にするように鼻を鳴らす。

「これみよがしにベタベタ仲良く並んで歩いてるだろ。毎朝毎朝俺にもロクに見せなかった女の顔なんて見せやがって。あいつ、このビルの上の方で働いてるヤツなんだよな」


責めるように言う健吾の言葉に狼狽えていると、健吾は苛立ちも隠さぬ顔で動けずにいる私に詰め寄ってきた。


「尻軽。どうせもうヤったんだろ?おまえ、俺の時も随分簡単だったもんな。新しい男出来て浮かれてるからって朝から人前でだらしない顔見せてんじゃねぇよ」


何か言い返さなきゃと思うのに、頭が痺れたように重くなって何も言えなくなってしまう。健吾はそんな私を見て意地悪く唇を吊り上げた。


「ちょっと迫ったくらいで付き合った初日にヤらせるようなちょろい女なんて、正直引くんだよな。けどおまえの場合、軽いんじゃなくて俺がおまえにとっては特別だったからすぐにカラダ許したんだろって思って、そういうとこ可愛いと思ってたのにな。………すっかりその見た目にダマされた。

おまえそんな汚れてませんみたいな清純そうな見た目のクセ、男だったら誰でもよかっただけなんだろ?俺に振られた途端にあんなガタイだけのパッとしない男に飛びつくなんて、とんだビッチだな。さっさと別れて正解だったわ」

健吾は駄目押しのように、私に痛烈な捨て台詞を吐いていく。

「尻軽なのも勝手にすりゃいいけど、手近なところでまた男調達するとか、みっともないことしてんなよ、目障りだから」

言いたいことを言っていくらかすっきりした顔になった健吾が去っていく横で、私は立ち尽くしていた。


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