恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

「藤村さんもかなりお酒いけるみたいだけど、甘い物も好きなんですね」
「好きですよ」

お返しじゃないけれど。私も余計な言葉を省いて越川さんの目を見てストレートに言うと、越川さんは一瞬言葉を詰まらせる。

「……………えっと。その、じゃあ今度はケーキ屋一緒に行きませんか?さっき藤村さんが好きだって言ってたモンブラン、すっごいうまいの食わせる店知ってるんですよ」
「越川さんのおすすめなら、ほんとうにすごくおいしいんでしょうね」

「それはもう保証します。サクサクのメレンゲの台座に大粒の和栗が乗ったころっとしたドーム型のかわいいケーキで。洋栗と和栗はどっちもおいしいけれど、甘味と渋皮の苦味の出方が全然違うんですよね。そこのケーキは和栗の良さをうまく引き出しているんですよ」

そのケーキを堪能することでも思い描いていたのか、頬を緩ませて話す越川さんははっと息を飲んで背筋を正してこちらを見た。

「あ、その、馴れ馴れしくてすみません。イヤじゃなかったらなんだけど。………本当においしいモンブランなんで、ぜひともモンブラン好きの藤村さんに一度は食べてみてもらいたいんです」

決して気安い気持ちで誘ったわけじゃないと弁解するように、越川さんは酔いですこし赤くなった顔で必死に言い募ってくる。

「ビールと同じく、甘い物も甘党にとってはドリンク剤以上に元気の素になりますから。よかったらぜひ」
「そうですね。………今日の一杯もすごい元気になれました。これで私、また来週もがんばれそうです」

私がそう謝意を口にすると、越川さんの顔はうれしそうに緩んでいく。

「いや、こちらこそ。俺も来週からすごい頑張れそうです」
「本当に。………本当に越川さん、ありがとうございます」

「やめてください、頭なんて下げないでください」


照れたように頭を掻く越川さんを見て、私は飲み始めたときから言うべきか迷っていたその言葉を躊躇いながらも口にした。


「今晩誘ってもらってよかったです。………実は私、もうすぐ今の事務所、辞めるんですよ」


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