恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

甘い彼女 【越川視点】


番外編(2)


【甘い彼女】 越川彰人視点

(※二人で飲みに行った数週間後、越川と千草が付き合う前のお話です)



今日の彼女はいつもよりも華やかなピンク色のリップを引いている。その可愛らしく飾りたてられた唇にひと口ケーキを運ぶと、彼女は感激のあまりなんだろう、「おいしい」すら言えずに目を見張った。

小粒な目をくりくりさせた、そんな表情がかわいい。ひたすらかわいい。とにかくかわいい。

(藤村さんって、ほんと見飽きないな)

それは千草と会うたびに彰人が思うことだった。千草は駆け引きや計算が出来ない分、反応がとても素直で見ているだけで癒される。

(俺、今しあわせだな)

自分が薦めたイチオシのケーキを笑顔で頬張る彼女を見ているだけで、腹の底をやさしくくすぐられるようなこそばゆい幸福を感じる。


……たとえ目の前にいるこの彼女が、自分の恋人(もの)じゃなくとも。







休日に千草と会うのは今日で3回目だ。


いつものように約束の時刻より早く待ち合わせ場所に来ていた彼女は、今日は細見の白いデニムに色味のきれいなシャツを着ていた。通勤スタイルではいつも制服のようにスーツをかっちり着込んでいる彼女だけれど、私服はわりとラフなものがお好きらしい。

初めて待ち合わせをしたときも、(私服もきっときれいめで上品なコンサバっぽい服を着ているのかな)と勝手に想像しながら待っていたけれど、現れた千草はいい感じにカジュアルダウンした格好をしてきた。

デニムにローヒールの姿は意外に思えたけれど、すこし幼く見える彼女のあどけなさが強調されて、そのときも目尻を下げて(こういうのもかわいいな)などと思ったものだ。

本人は「からかわないで」と怒るけれど、今日の姿もまだ大学生と言っても通るだろう。べつに幼い雰囲気の子が好きだと言うわけじゃないけれど、とにかくかわいい。

隣に並んで歩くたびに、この手をつなぐことが出来たなら、そんな関係になれたら、どんなに幸せだろうとばかり考えてしまう。


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