牡丹と狐

一.其の刀、無銘刀につき。

青い空と蝉時雨。また、何度目かの夏がきた。
人間には夏休みなるものがあると聞いたことがあるが、暇なら何故ここに来ないのだろうか。
一昔前は、数百年経った道具には神が宿ると、俺も一応神として崇められていたことがあったんだが……。

「……まあ、それも人間からすれば遥か昔の事なのか。」

いつからか、俺の奉納されている神社の存在は忘れ去られ、今は同じく無銘刀の「吟」と神社暮らしをしている。

「所詮、僕らは付喪神だ。拝まれても何もしてやれない。来なくなるのも当然さ。」

その言葉を聞いて、思い出す。何十年も、ここへ毎日来てくれた少女の事を。

「……あの娘も、そうなのかな。」

人目につかない静かな場所。
だからこそ好きなんだと彼女は言ってくれた。

ーーそういえば、彼女が来なくなったのは……いつだ?
あれからもう何年が過ぎた?

「……どうだろうね。」






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