Focus
はじまり

照明が熱いくらいの室内で、シャッターが切られ、一瞬が焼き付けられていく。



シャッターごとにポーズを変える彼女達に光を送るのが、自分の役目。

媚びを売るような女らしさが溢れるかえる。



「いいよー沙知加ちゃん達、衣装直してもらって」

毎月発売されるファッション雑誌には何点もの写真が掲載される。雑誌編集者とスタイリスト、ヘアメイク、カメラマンのチームで片っ端から写真に挙げていく。俺はそのカメラマンの助手をしていた。流行り廃れはあっても食いっぱぐれないカメラマンとして。



「礼治さん、お疲れさまです」


タバコを探して胸ポケットに伸ばした手を止めて、オレの差し出したコーヒーを口にする。

上目遣いにオレを見てコーヒーを啜るこの人は、俺のボス。

癖のある黒髪が、外人のように掘りの深い顔を覆っている。



「ここ禁煙だっけ」

「今やどこも禁煙ですよ。止めるって言ってませんでしたか」

「気のせいじゃない。言ったっけ」

仕方ないと言うようにコーヒーを啜る。

「やだなぁ。コーヒー飲むと吸いたくなっちゃう」



とんとんと指は灰を落とす仕種をする。



「そんなこと言ったってダメです。すぐに衣装変えて次の撮影ですよ」
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