Focus

「首尾はどうだ?」

船縁から船へよじ登ると、にっこり笑った船長が聞いてくる。

背負っていたボンベを船底に投げ出すと、ガシャリと重い音をたてた。水から出ると、途端に体が重く感じられる。水中で軽々と背負っていたボンベは、水から出ると途端に重荷でしかなくなってしまう。

上も下もなく動くことのできる水の中は、とても自由で呼吸さえ出来るならずっと潜り続けていたい。

温かな水に棲む鮮やかな魚を追いかけて過ごせるなら、何物をも投げ捨ててしまえるだろう。

「上々。かなりいいよ。二本目はポイントを変えてテーブル珊瑚まで行ってよ」


「ほんとに行くのかぁ、結輝」


「なんで。いつも行ってたのに」

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