いい加減な恋のススメ


と、


「んっ……」

「ひゃ!?」


直ぐ側で誰かが息を吐く音がした。それがどれだけ女性の声だと安心したことだろうか(それでも大変なことだが)。残念ながら私の希望は崩れ去るように耳に届いたのは男性の声だった。

必死に昨日のことを思い出す。しかしそうすると再び二日酔いの頭痛が私を襲って正常な判断をするのを鈍らせる。
もしかしてこれは夢じゃないだろうか!、と私は更に自分の方をつねってみたけどその夢であってほしい夢が途切れることがなかった。

しかしそれよりも私が気になるのは、今私の隣に眠っているこの男性は誰なのかということ。どうやら反対側を向いているからか顔はこちらには見えていない。だがその顔を確認する度胸を私は持ち合わせてはいなかった。

痛む頭でなるべく正常に近い判断を下す。


「(隣の人が起きる前に帰ろう……)」


そして今日のことを全て忘れよう。もし私の親が人の道を踏み外したようなことを私がしてしまったなんて知ったら卒倒してしまうだろう。何としてもこの事は誰にも知られずに抹消せねばいけない。
私はそう思ってベッドを抜け出し、その下に散らばっている下着や服をかき集めようとした。

が、


「……ん、」


ベッドを出る際、隣で眠る男の足を再び蹴ってしまったことが原因でその男がこちらに寝返りを打ってきた。



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