溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


『いいかい? 家を出るまで、目をつむっているんだよ。 絶対に家の中を見ちゃいけない』


そう言ったおじさんは、電気を点けて階段を降り始めた。そんな音がした。

すると、今までかいだことのないようなにおいが、目をつむった私の鼻をついた。

なんだろう。生臭いような、このにおい……。

家の中を見てはいけないと、おじちゃんは言った。

でも、私は知りたかった。

家の中がいったい、どうなってしまったのか……。

おそるおそる、まぶたをうっすらと開ける。

その網膜に写ったのは、およそ理解しきれない光景だった。

家具や食器が破壊され、両親が床に倒れている。

その胸には包丁で刺したような傷があり、二人とも全身が真っ赤に染まっていた。

荒れ果てた室内に横たわる二人は、まるで人形のように、ぴくりとも動かない。

階段の電気しかついていない暗い室内は、それ以上細かくは見えなかった。


『やっ──』


悲鳴も出なかった。

ただただ恐ろしくて、息をするのがやっと。


『ひかりちゃん? ひかりちゃん!』


おじちゃんの声が、遠くなっていく。

私はそのまま、眠るように意識を手放してしまった。


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