もう君がいない


しばらくそうしていた。


少しの間だったけど、私にはすごくゆっくり時間が流れていた。


蓮は、私を離すと、

私の顔を両手でそっと包んで、頬の涙を指先で拭ってくれた。



「何で泣いてた?」


蓮の優しい声が耳に響く。

こういう時、蓮はすごく優しいんだ。


本当に、全てを包み込んでくれるような、、

そんな感覚を覚える。



”何でもない。”

私はそう言うように、黙って首を横に振った。


いま、蓮に話せることではない。

話すことはできない。


すると、

「ん、わかった。早く家入れよ?もう外は寒いから。」


それだけ言って、蓮は自分の家に入っていった。


蓮は、私が話したくないとき、

それをきちんと感じ取ってくれて、絶対にそれ以上聞いてきたりしない。

そっと側にいてくれるだけで、私が自分から話せるようになるのを待ってくれる。


決して問い詰めたり、

自分からしつこく聞いてきたりしない。


蓮が家に入ったのを見て、私も家に入る。


体には、さっきまでの蓮の温もりが残っていた。

まだ蓮の匂いがする気がした。


蓮は、、

蓮はどうして私を抱きしめたの、?


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