もう君がいない


「あらやだ。まだ着替えてもないの?」


ソファーに座ってテレビを見ていた私に、洗濯物を干し終えてリビングに戻ってきたお母さんが小言を言う。



「だってまだ時間あるし。」

「やだわぁー。早めに準備終わっちゃって、ソワソワしてるくらいが普通よ。」

「何それ、」

「そのくらいの可愛さもないなんて~。」


そう言いながら、今度は掃除を始めようと、掃除機を取ってきたお母さん。



「ほらほら、邪魔になるから、部屋に行って準備始めなさいよ~。」

「あーもう、わかったよ!」


そうしてリビングから追い出された私は、

しぶしぶ自分の部屋に戻り、言われたとおりに準備を始める。


せっかく時間もあるし、いつもより念入りに化粧しちゃおーかな。




私の親はもちろん、蓮の親も、

もうすでに、私たちが付き合っていることも知っているし、

今日私たちがデートに行くことも知っている。



修学旅行から帰った日に、

蓮が自宅にお土産を買わないことを見越して、買っておいたお土産を渡しに行ったんだけど、


「茉菜ちゃんみたいに、優しくて気の利く可愛い子がお嫁さんに来てくれるのが夢なの~。」

って、おばさんがいつもみたいに冗談で言ってくれた一言に、


「嫁はまだ早いな、」

なーんて蓮が言うもんだから、


< 362 / 448 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop