【詩的小説短編集】=想い=
疑問

『今夜6時スタートだぞ。俺が幹事なんだからちゃんとこいよ』

親友のタケルに念を押され、しぶしぶ年が明けたばかりの街へと出掛けた。

「とにぃ、俺があーゆー雰囲気を苦手としているのを知ってて強引に呼び出すんだからな……」

親友と言っても、ごく幼い頃から近所に住んでいて大学の現在まで同じ学校という至って面倒な相手なのであるが……。


北風が吹く中、あいつには逆らえないという苦い思いを胸に溜め息まじりで指定場所へ向う。

行きたくない気持ちからか、足取りが重くなり指定時間を少し過ぎてから着いた居酒屋には、既に酒盛りをはじめている男たちの熱気が立ち込めていた。

「おっ、これでメンバーが揃ったな。んじゃ改めて乾杯するか」


俺が来たのを確認したタケルが男たちにそう声を掛けると、一斉に視線が集まる。

それは、色々な意味が込められている事を俺は知っていた。


『なんだよ、あいつ来たのかよ……』

『珍しいな……女がいない席にあいつが顔出すなんて』

冷たい感情が一気に突き刺さってくるのが痛いほど感じたのだ。

「おう、よろしくな」

そんなこと関係ないと言い聞かせながら、作り笑顔で俺の為に空けられたタケルの隣りに腰を下ろした。

そもそも、俺は誰ともツルむことはしないし、頼る事もない。

周りの人間の考えることは幼稚でくだらないことばかりだ。

それでもタケルとは、その昔に心を通わせたこと‥それも中学くらいまでか‥もあったから逆らえずにこうしてここにいるのだが……


「西原は何飲むんだ?」
タケルが少し赤らんだ顔で聞いてきた。

酒に弱いくせにすぐに調子に乗って飲むのはこいつの悪い癖だ。


「俺は冷や酒をお願いするよ」

「ポンシュ冷やでお願いしま~す」

タケルはおどけ声で、店員に向いそう叫んだ。


ウザイ空気。

面倒な会話。

騒がしい雰囲気に腹が立つ。


でも、それでも帰らないのはこいつのタメなのか?

隣りで器用に振る舞うタケルをみているとフッと苦笑いが込み上げる。

人間、何のタメに人と交流するようにできているのか……

酔えない頭で考えても答はなく、俺は日本酒をあおった……

=fin=

おそまつ

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