【詩的小説短編集】=想い=
自分

昔ここにはお城が建っていたらしい。


もう100年以上も前に取り壊されたと入口にある看板に書かれてあった。

今は立派な石で出来た土台だけが残っている。


そんな場所の端に立って下を見下ろす。


お城が在った頃は『城下町』と呼ばれていたその風景は、現代を思わせるアスファルトの上を走る車と送電線、それにソーラーパネルを被った屋根が並ぶ住宅街は冷たい印象しかない。


左手首に出来たリスカの跡を擦りながら、しばらくそれを眺めていた。


『ここから飛び降りたら………』


命を絶つ言葉が頭をよぎる。


先月は海に行った。


荒波を見ていたら膨れ上がった自分の顔を想像していた。


先々月は線路が上から見える場所に行った。


電車が通り過ぎる音を聞いていたらダイヤを乱した後の清算金の金額を家族に払わせることはできないと思った。



そして今月はここ。


飛び降りたら頭が割れて脳みそが出ちゃうのかな?


下から吹き上げる風が『やってみろよ』とばかりに額に当たる。



もう3時間はここにいる。


今日も命を絶つ勇気さえ出ずに家に帰ることになるのか。



来月は樹海にでも行って来よう。


太いロープを持って、手頃な樹を探して………



首を吊ったら、中身が飛び出るんだろうな……


ドラマとかで見るほど綺麗なものじゃないのだろう。


自分の命………


望んで生まれた訳ではないけど、母親の胎内から出る時は外に出ようと、生きようと必死だったはず。


こんなに辛いところとは思わずに頑張ってたんだ。


でも今、この命は在ってはならない。



しかし、自ら絶つ事すら許されない。



死を夢見てる。



生きる屍としてさまようゾンビ。



それが自分………




=fin=



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