【詩的小説短編集】=想い=
花瓶

下校


『ズルイよ。

大人たちはみんなボクを馬鹿にしている。


なんで、ボクの本当を見ないのかな?


ここで怒られなければボクはきちんとやろうとしたのに……


なんで待っていてくれなかったのかな?』



華久羅はテーブルに顔を伏せながらそんなことを考えていた。


つい先ほど学校から自宅へ戻り、ランドセルをほほりなげた瞬間に母親から言われた一言が引っ掛かっていたのだ。


「カグラ!帰ったの?ただいまくらい言ったらどう?」


「ただいま……」

1階ににいる母親には聞こえるはずもない蚊の鳴くような小さな声でその問いに答えた。


部屋に入ってすぐに友達との約束だった野球をする為にバットとグローブを持ち、まさに部屋を出ようとしたタイミングだった。


確かにボクの気持ちの中にすぐに宿題をやろうと言う気持ちはなかった。


でも、遊びから帰ったら必ずやろうと思っていた。

だからムカついたんだ。

逃げるように玄関まで行くと、背後から母親が僕を怒鳴りつけた。


「カグ!宿題はないの?習い事もしていないのだから、宿題くらいはやってちょうだいね!」


そんなことを言うものだから、玄関にあった花瓶を投げ付けてやったんだ。

それは台所から出て来た母親の肩辺りに命中して………割れた。


母親はうずくまり肩を押さえていた。

ボクは恐くなってそのまま靴を履いて玄関を飛び出してしまった。


そして今、公園のテーブル付きのベンチにいる。

ボクが悪いんじゃない。

ボクを信用しないお母さんが悪いんだ。

頭の中で何度もリピートするセリフ。

毎日、同じことの繰り返しだから、日に日にボクを見る目が冷たくなっていくあの視線が嫌になったんだ。

ボクの仕事は大人になる前に充分に身体を動かして遊ぶことだから、宿題とか習い事とかはしたくない。

先生に怒られるのもボクだからお母さんには関係ないよ。

だからもう少しボクを信用してもらいたい。

でも………今日のお母さんはケガしてた。


ボクの投げ付けた花瓶でケガを……

少しだけ心が痛んだ………



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