【詩的小説短編集】=想い=
癒し
「じゃあな、靖子♪」

運転席に座る私の頭に朔(ハジメ)の大きな掌が、かぶさる。

「うん。ありがと」

私は小さく頷き、エンジンかけ、車をスタートさせた。

私達は恋人同士じゃないから、お別れのKissはしない。

だから、頭に置かれる掌が『またな』の証なのだ。


朔と知り合ったのは、もう2年も前の事。

たまたま、職場の飲み会に参加した時に左斜め前に座ってた。

おじさん達に「若いねぇ〜」なんて、ちやほやされていたのをじっと見ていた男。

それが朔。


なんとなく話しをしたら、すごく気が合って、それからは何でも話せる友達になった。

どこでも一緒。


でも、いつも二人とも恋のホコサキは違うところにのびている。


実は今日も私の失恋話を聞いてもらうために朔の家にやってきたのだ。

『やっちゃんはさ〜、俺と居過ぎるんじゃね〜の?』

『え〜それ言うなら、お互い様じゃん』


お互いの失恋話の後の決まり文句。


泣いていた涙も忘れちゃう。


『ハジといると楽しんだけど……』

恋と呼べない想いに胸が痛い。


家に着いた頃にメールが届いた。


【今度、どっかに遠出しような♪】

朔からのお誘い。

もちろん、断る理由もなく【よろしく☆】と返信。


二人で一緒にいると楽しいけど、私の心はきっとまた、どこかにいくんだよ。

「ただいまぁ〜」

玄関を開けると母親が立っていた。

「また、朔くんのところに行ってたの?」

「う……ん」

顔を見られないように靴を脱ぎ部屋へと急ぐ。

母親なりにいい年してフラフラしている娘が気になるのかな?

「私、失恋するたびにこうだもんね……」

「だって、朔といると癒されるんだもん……」


独り言と一緒に涙が溢れてきた。


『友情の好き』

『愛情の好き』


私にはどっちも大切だから今は選べない………


=fin=



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