穏やかと癒し・・・ときどき、あい・・・
大切
孝徳は部屋に入ると私のボストンをいつもの場所に置き、コンビニの袋をテーブルの上に置いた。

そして、何も言わずソファーに腰を下ろした。

「孝徳、どうしたの?」

と、私は近づき孝徳の顔を覗き込んだ。

「咲希は何も変わらないね」

孝徳は立っている私を抱きしめた。

「たったか・・のり・・」

私は驚いた。

孝徳は私が泣いた時と心配だった時しか私を抱きしめたりしない。

「咲希はわかってるのか?」

なんかとてもせつない声な気がした。

「なに・・・を?」

とうとう、この日が来たのかと思ってしまった。

今まで、“友達以上恋人未満継続”の関係だった。

いつまでも続くとは思っていなかった。

でも・・・・・・

「俺は何もしないけど、これくらいは許してね」

孝徳はそれ以上何も言わない。

私を責めたりしない。

「孝徳・・・私ね・・・孝徳が大切」

孝徳に抱きしめられている私はドキドキしてる。

深呼吸して、言葉を続ける。

「ホントに大切。それがどういう意味の大切なのかまだよくわからない。でも孝徳が大切 ・・・たい・・せつ・・・なの」

最後の言葉は震えていた。

孝徳に申し訳ない。

自分の気持ちがよくわからない。

でも孝徳が大切。ホントに大切。

「ありがとう。今はそれで充分だよ」

そう言いながら、抱きしめる手に力が入る。


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