吸血鬼の翼
疲れた美月はベットに倒れ込むようにして眠ってしまった。
気になっていた事があったのも、すっかりと忘れて…。



「…ぅ」

美月の耳に唸る声が聞こえて来た。
携帯の時計を見ると深夜の2時頃―。
確か、唸り声が聞こえて来た所にはイルトがいる筈…。
美月は意識もはっきりしないまま、ベットから乗り出して下を見てみた。
案の定、イルトは魘されている様だ。
彼の額には汗が滲んで苦しそうに息切らせている。

「…ィ‥ルト?」

寝起きだから声が思うように出ず掠れる。
すると更にイルトは苦悶の声をあげる。
流石にこの状況に目が覚めた美月は彼を起こそうと手を伸ばした。

「!」

イルトは縮み込むように体を小さくしている。
背中からは翼が出て来ている。

美月は驚いて思わず伸ばした手を引っ込めた。
動揺する美月を余所にイルトは口を開き、何かを呟いている。

「…そ…」

小さな声―。
震えている。
続きを言おうとして口を閉ざさない。
何かを紡ごうとしている。

「…嘘‥だ!そんな…ルイノ…!!」

ルイノって…?

イルトのいう“他の世界”と関係があるのだろうか―。

何かの痛みに我慢出来ない様なイルトの叫ぶ声にハッと我に返り、彼の肩を揺さぶった。

ルイノ―?

人なのだろうか?

そう考えながらも美月はイルトを起こそうと必死に揺り動かした。

「イルト!」

「!?」

名前を呼ばれた彼はハッと目を覚ます。
しかし、息を切らせてまだ夢から完全に戻って来ていないのか、目が虚ろだった。

「ぅ…」

「しっかりしてっイルト!私がわかる?」

彼の両肩を掴んでそう言った。
一瞬、彼の状態に焦ったが、直ぐに自身を取り戻したイルトは美月の顔を見た。

「…ミヅキ‥。」

彼は美月を見て安心したのか、目から涙が溢れていた。
『大丈夫?』と言って顔を覗き込むとイルトは美月の腕を掴み、自分の所に持ってきて抱き寄せられた。
イルトのコレは癖なのかな…

「どうしたの?」

「…ゴメン。」

美月の疑問には答えずに謝るだけでイルトは強く抱き締める。
不意にポタポタと彼の涙が美月の肩に滴となって落ちて来た。

私はイルトに何をしてあげられるのだろう?

その為にも彼の事を知りたいと思い始めた。

イルトに出会った時から変だ…私…
自分から他人に興味を持つなんて…

心に宿った不思議な気持ちに戸惑いながらもイルトの背中の服を手の平で小さく掴む。

暫くの間、何もせず、そのままでいた。




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