吸血鬼の翼

失踪事件




イルト達が居なくなってから、約1ヶ月―。


特に何の変化もない毎日を過ごして来た。
朝、起きたら学校へ行って友達と他愛ない話をする。
今、何の曲が流行ってるとか、どんな服を買いに行こうかとかそんな内容を喋りながら気を紛らわす。
それから、学校から帰ると夕飯の用意にスーパーへ買い出しに行き、料理に取りかかる。
前より、作る量が減ったから楽だなとか思った。

支障はないのだけれど…心に隙間があって虚無感が存在している。

これは以前から感じていた事。

それは、どうしようもないのだけれど。



美月は一番後ろの席から、ぼんやり頬杖を突いて窓の外を眺めていた。

「ちょっと美月、聞いてよ!佐々木の奴が…」

「…え?」

気が付けば、美月の前の席に座っていた千秋が此方を真っ直ぐ見ていた。
唐突の振りに慌てた美月は少し動揺する。
時計を見れば三時半を回っていた。

そっか……もう放課後なんだ。

呆然とする美月に構わず、千秋は話を続行させる。

「ちょっと太ったんじゃねぇか痩せろって言われたんだよ!酷いと思わない!?」

その時を思い出したのか、千秋は両手を使って美月の肩を揺らす。

「相変わらず、仲良いね2人共…」

苦笑しながら、美月が答えると千秋は訝しい表情を浮かべる。肩を揺らすのを止めた千秋は盛大な溜め息を吐いた。

「この話のどこを聞いて、仲が良いって言うの~」

気付いてないのだろう。
佐々木君は千秋を見ている時の瞳が他の女の子と違う事。
大切そうにいつも近くで見守っているんだよ。

「………羨ましいなぁ」

美月がポツリと呟くと、千秋は不思議そうに首を傾げた。



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