吸血鬼の翼

来訪者、再び




美月の声に反応し、立ち止まるも振り向く事はない。
まだ震える体を叱咤する様に服の裾を握り締めながら、美月は口を開く。

「数人の女の子が失踪してるんだけど…貴方の仕業なの?」

あの妙な失踪事件、普通じゃないと感じた美月はクラウへ疑心を向けた。
怒らせるかもしれないと思ったが、どうしても気になったのでクラウに問いただす。

「……貴様が知る必要はない」

怒る気配等、微塵も感じさせず、寧ろ淡白な返事をする。
明確な答えは得られなかったけれど。否定はしない。
それだけ述べたクラウは再び公園の出口へ歩き始める。

必要ない…確かにそうだと思う。
でも、やっぱり…

クラウの姿が見えなくなり、張っていた気が無くなって、遂に体を支え切れず倒れ込んでしまった。

首筋の傷は浅く、流れた血も既に固まっている。

「………イルト…」

意識が薄れていく間際、イルトが頭に思い浮かんだ。
今、どうしているの?
怪我してないかな…

必要とか関係ないとかそんな事じゃなくて

私は一体どうしたいんだろう?



そこで、美月の意識は途切れてしまった。


美月が意識を失ってから、直ぐに木の陰から1人の少年が現れた。

癖のある新緑の髪に透き通る様な蒼い瞳と端正な顔立ち。
薄紫の服を着た華奢な体型をしている。
その少年は眠たそうな表情を浮かべ、倒れている美月の傍まで緩慢に歩を進める。

「………。」

さっき、クラウと一緒にいて、しかもイルト達の事を知っている様子だった…。

今まで、2人の会話を聞いていたらしく気絶した美月を訝しげに眺める。

この少女から、何か手掛かりを得られるかもしれないと思った少年は軽々と抱え上げた。

とにかく、休める場所をと思った少年は近くにあったベンチまで美月を運んで行く。



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