吸血鬼の翼

迷走




「…うん、分かった。明後日だね。」

月曜日の夜、漸く母から入った連絡は次に家に帰って来る日の内容だった。

今まで忙しかったのかなぁ。

美月は受話器を置くと、溜め息を吐く。
寂しいとは思わない。
…何時もの事だから。

薄茶の瞳を窓へ向ければ、昨日と変わらず風で揺れていた。
気に留めずに明かりのついているリビングへ足を運ぶとテレビを不思議そうに見ているイクシスの姿があった。

結局、昨日は何処へ出掛ける事もなく家に居た。
イクシスと2人で“この世界”について色んな事を話した。
難しい説明は出来ないけれど、一応、この世界の一般常識的な事をイクシスに教えたのだ。

ある程度、理解したイクシスだが、やはり馴染みない物に対して抵抗があるみたい。

「……何回見ても、妙だね…てれびって」

「そうかな?私にはもう慣れ親しんだものだから」

そう返事した美月にイクシスはまだ納得してなさそうに眉を寄せる。
そんな彼に苦笑を零しながら、テレビ画面を見た。

丁度、ニュースの時間だったらしく芸能情報、スポーツ等が放送されていた。
歌手の誰かと俳優が熱愛発覚だとか先週のプロレスの試合が八百長だったとか。

「……どうでも良い事ばっかりだね…」

「あはは…」

本当に興味なさそうにテレビを見るイクシスに美月は苦笑を浮かべるしかない。

途中で画面が切り替わり、物々しい雰囲気がテレビ内に漂う。
どうやら、速報が入ったらしく報道アナウンサーの真剣な顔付きに思わず美月は画面に食い入った。

『最近相次いでいる女子高生連続失踪事件ですが、また新たに起こった模様です。』

その流される報道に美月は心臓が大きく跳ねた。
また、誰かが消えたのだ。
一体、何故こんな事が起きるのだろうか。
そこで美月はまたクラウの姿が思い浮かんだ。
本当にあの人がやっているの?
でも、そうだとしたら何の為に…

其処まで思考が巡った矢先、またもやアナウンサーから事件の被害者の詳細を述べる。

『失踪した少女の名は月雲高等学校に通う村田 美佳さんです。昨夜、遅くまで部活があったらしく…』

月雲高等学校って私と同じ学校の生徒じゃない!

驚愕した美月は一瞬、頭が真っ白になった。

更にアナウンサーは事件の内容を喋り続けるが、美月の耳に入らなかった。


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