吸血鬼の翼

在処

「…篠崎、今更何だけど聞いても良いか?」

「何?」

階段を上っている途中で後ろにいる佐々木から声が掛かる。
不思議そうに聞き返す美月に佐々木はこれまた不可解な顔つきを浮かべた。

「いつの間に元気になったんだ?」

「あ!」

佐々木の疑問に美月は言葉を失ってしまう。
まさか、ラゼキの魔法で治して貰ったなんて言えない。
言った所で信じてもらえないだろう。

否、こんな状況なら伝えても信用してくれるかもしれない。

廃ビルに来てから不思議な事が絶えないし…

案外、すんなりと受け入れてくれるかも。

「あの、実は…ムグっ!?」

美月が意を決して口を開いた時に先を歩いていたラゼキの手で口を塞がれてしまった。

「実は俺な医者の卵やねん、それで嬢ちゃんの容態を見て治療したら、この通り元気になったちゅー訳や!」

ラゼキはいつもの明るい口調で呆然とする佐々木にそう言って諭す。
一方の美月は口を塞がれている事で息が出来ないらしく顔を真っ赤にしてもがいている。
ソレを今気付いたという態とらしい態度で美月の口から手を離した。


「ラゼキ…苦しいじゃない!!」

「すまんな、ついつい」

咳をしながら、怒鳴りつける美月をラゼキは肩を竦めて笑ってみせた。

ラゼキの対応が不満だったのか、美月が口を開こうとする。
それに対してラゼキは自分の所へ美月を引き寄せ、佐々木に背を向ける。
ラゼキは小さな声で美月に喋り始めた。

「アホ、魔法の事なんか言うてみい、下手に巻き込みかねんで。今でも充分ちゅー程やけど…それよりもっと酷くなるんや、それでもええんか?」

「……ごめん、なさい」

改めた美月は自身のしようとした事に反省の色をみせる。
千秋と佐々木にはこれ以上、危険な目に合わせたくない。

しょんぼりと効果音がつく程に落ち込んでいる美月の頭をラゼキは軽く叩いた。

「分かったんやったら、ええんや!」

「……うん」

そんな2人の様子を見ていた佐々木は頭に沢山の疑問符を浮かべていた。
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