吸血鬼の翼

対峙

「……みづき、此処に居て…」

イクシスは美月の頬を優しく撫でる。
美月を綺麗な蒼い瞳に映していた。
イクシスがあまりにも率直に見つめるものだから、美月は思わず戸惑ってしまう。

「でも、イクシス君やラゼキはどうするの?」

思案の色を浮かべる美月にイクシスは眠そうな表情のまま、口角を上げる。

「……心配しないで…必ず外に出してあげるから…」

そう言って美月の頭を優しく撫でた後、立ち上がった。
はぐらかされた様な気がした美月は扉の外へ出て行くイクシスを見送る。

本当に大丈夫なの?

ラゼキやイクシス君は無事でいられる?

さっきの人、とても怖かった。
佐々木君が言った様に人を軽々投げるなんて普通じゃない。

美月がイクシスに声を掛けようとした時にはもう扉は閉ざされていた。



* * *



男を直に見るのはこれで2度目のラゼキはそれが誰なのか迷いはなかった。
忘れる筈がない。
あの酷い夜の中心にいた男を。
そして、イルトの話からして目の前に立っている人物はロヴンという吸血鬼に間違いないと判断出来た。

狂気を宿した最後の吸血鬼。
禍々しいオーラが深紅の瞳を通して伝わって来る。

「あんなに誘拐してどういうつもりや…」

ラゼキの低く憤りの感じる声はロヴンには通じていないのだろうか、相変わらず口元に笑みは絶えない。

「リフィアに聞いたんでしょ?探してるんだよ、聖女って奴をね。」

何処か人を馬鹿にした態度は以前と変わりなく、癪に触る。
しかし、幾ら殺気や怒声を浴びせた所で全く堪えない相手なのだ。
ラゼキは自身を落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸を繰り返した。

「……自分の食欲を満たす為でしょ…」

イクシスの重く冷たい瞳は真っ直ぐとロヴンを捉える。
それに対して否定する気配もなく寧ろ、にっこりと笑って肯定した。

「その通りだよ!」

ロヴンは可笑しそうにラゼキとイクシスを見やる。
まるで、虫螻でも見る様な蔑んだ瞳で。



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