勘違いの恋
協力


「よし。今度こそ……」

 藤間部長に指摘されたミスを直し、再度企画書を見直す。

 私が勤めているのはデパートの企画部で、月ごとの催事を受け持っている。人気があるのは様々な地域の物産展だけど、私にはどうしても挑戦してみたい企画があった。その企画が条件付きだけど通りそうだという先ほどの藤間部長の話を聞いたからには気合いが入らないわけがない。

 終業の時間になったけれど、キリの良いところまで続けようとキーボードの上で手を動かしていると、突然頭の上から声がした。

「水瀬、行くぞ」

 顔を上げると、植松が帰る支度を整えて私を見下ろしている。

「な、なに?」

 人懐っこい笑顔を向ける植松の突然の登場に、私は必要以上に身構えてしまう。こんなんだからダメなんだと思いつつも、早々人格を変えられるわけでもなく、私はなるべく何でもないふりを装って植松に重ねて尋ねる。

「『行く』って、どこに?」

 どこか打ち合わせに行く予定でもあったのかと首を傾げると、植松は大げさにため息を吐く。

「今日、飲みに行こうって言ったじゃねぇか」

 その言葉で、私は今日の休憩室での植松とのやり取りを思い出す。だけど、約束まではしてなかったはずだ。そして私はそんなことよりも仕事の為に気を引き締めなければならない。

「私はオッケーした覚えはないんだけど」

 いつもより速い鼓動を感じながら、私は必死で冷静を保とうと尽力していた。数時間前に仕事一筋にやって行くしかないと心に決めたばかりなのだ。ときめいている場合ではない。

 植松の無駄にキラキラした笑顔を見ないように、動揺でおかしくなってるに違いない自分の顔を見られないように、視線をパソコンに戻すと植松が藤間部長に向かって声を上げる。

「部長、例の件、まだ水瀬に伝わってないんすかー?」

「え?」

 何のことか分からないけど、私も藤間部長を振り返る。

 すると、私たちから視線を受けた部長が、ハッとした顔になった。

「あ、忘れてた」

「な、何をですか……?」

 私が不安になって席を立つと、藤間部長が私と植松に向かって手招きをした。

「な、何があるの?」

 植松を見るけれど、ニヤニヤする顔を私に向けるだけで植松は何も言わずに先に藤間部長のデスクへと足を向ける。私も慌ててその後を追った。

「水瀬、今日俺が言った企画の件、覚えてるか?」

「はい。色々条件はあるけれどって……」

「そうそう。その後、別の話になって忘れてたんだけどな、その条件ってのが、植松のチームとの合同で進めることなんだ」

「はい?」

 思わず聞き返してしまう。植松のチームは家電の販促に力を入れているはずで、私が出した企画とは繋がりがない……はず。

「水瀬が出した企画は写真展だよな?」

 藤間部長の確認に私は頷く。

「で、うちのチームは今回デジカメの販促をすることになった」

「つまり、販促のデモンストレーションとしての写真展ってことが条件……?」

「当たり」

 藤間部長と植松が声を揃えて頷く。

「で、でも私の企画書読んでくださったんですよね? 写真を観てその空間でゆったりと……」

 販促を兼ねればゆったりした雰囲気は難しい気がする。私はデパートに来たお客様にリラックスする時間を提供したくてこの企画を出したつもりだった。

「そこはお前と植松ですりあわせをしろ」

「そんな……」

「ってことで、今から俺と飲みつつ仕事の話だ。行くよな?」

 思い描いていた企画が予想外の方向に向かっていくような気がして私は慌てる。

「もちろん!」

 私は慌ててデスクの上を片づけて植松と共に会社を出た。

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