猫系男子の甘い誘惑
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。本格的な登山道じゃなくて、遊歩道整備されてるし。さあ、行こうか」

 せっかくの日曜日、何を好き好んで山になんて登らなければならないのだろう。心の中で自分の不運を嘆いてみるが、佑真は引き返すつもりはなさそうだ。

「……山舐めてると死ぬわよ?」
「舐めてないよ。下から登山道使うなら、もっと厳重に装備するけどさ。遊歩道から外れなければ遭難なんてしないから」

 せめてもと言葉を重ねてみるが、それもまた無駄な抵抗だった。
 
 たしかに、この山には遊歩道も整備されていて、そこに向かうであろう人達は、登山道組よりはるかに軽装だ。
 
 遭難、だなんて縁起でもない言葉を言ってくれるが、佑真の言うように遊歩道を離れなければ遭難することもないだろう。佑真はさっさと歩き始めている。

(……ここから帰るってこともできるけど)

 倫子は近くに会った看板で現在位置を確認する。ここまでは車で来たが、看板によれば駅まで徒歩五分ほどらしい。ということは、駅まで行けば自力で帰ることもできる。
 
(……でも)
 
 佑真は倫子に復讐させてくれると言っていた。敦樹の心臓をぐさりと一発で貫けるような復讐を。
 
(さすがにグングニルの槍っていうのは……大げさすぎると思うけどさ)
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