猫系男子の甘い誘惑
 赤いカーペットに背の低い家具ばかり配置した店内は、やけに豪華そうに見える。この店を選んだ倫子自身、一瞬入るのをためらったくらいだった。

「そんなに時間はかからないと思うけど、面倒だったら外で待っててもかまわないよ」「やだよ、倫子さんの服を選ぶために来てるんだから、外に出てちゃ意味ないじゃん」

 あらかじめ着用していく場所と目的、それに倫子のサイズと日付は伝えてあったから、その日レンタルできるドレスだけが、倫子の前に吊されている。

 色鮮やかなそれぞれを見ると、レンタルの目的はどうであれ、少しだけわくわくしてきた。

「これなんかどう?」

 倫子が最初に選んだのは、黒のドレスだった。黒とはいえ、きらきらする飾りがつけられていて華やかだ。冠婚葬祭兼用の黒とはまったく違う。
 だが、それは佑真のお気に召さなかったようだ。

「倫子さん、黒から離れようよ。大人セクシーって感じで悪くないけどさ、黒はちょっとねぇ」
「お……大人セクシー……」

 その言葉にがくりと倫子の肩が落ちた。セクシーとか大人とか聞こえのいい言葉を選んでいるが、要するに老けて見えると言っているわけだ。

(まだ三十にはなってないんだけど)

 と心の中で毒づいてしまうのは、きっと佑真の言葉が正しいのを倫子も心のどこかで認めているからだ。
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