猫系男子の甘い誘惑
(でも、綺麗にしてもらったら気分は悪くないし……まぁいいか)

 ドレスも靴も、片側に寄せてもらった髪も、いつもよりはましに見せてくれる。機嫌よく支払いをすませて、披露宴の会場へと足を踏み入れた。
 
 ご祝儀出すのもばかばかしいのだが、そこはつきあいだ。きっちり同僚として恥ずかしくない額を包んだご祝儀袋を出して受付をすませると、待ちかねていたように佑真が近づいてきた。

「今日の倫子さんは、めっちゃ綺麗! だから俺言ったでしょ、綺麗になれるって」
「プロのテクにだまされてるんじゃないわよ」
「まったく……どうして、そういうことを言うかな? もう少し可愛く返してくれてもよさそうなのに」
「うるさーい」

 挙式に招かれているのは親族だけだから、同僚枠と友人枠の二人は披露宴からの参加になる。

 会場に入ると、そこはたくさんの人で賑わっていた。自分の席を探し、佑真とわかれてそこへと座った――はずだった。

 だが、自分の席を確認した佑真は、すぐに戻ってきて再び倫子に話しかける。

「ねえ、二次会行こうよ、二次会」
「やーよ、今日店までこのドレス返しに行ったら安くなるんだもん」
「やっぱりだめか」

 悪びれない顔で、佑真は笑う。レンタル費を安く上げたいというのが本音でないことも、きっと彼には見抜かれている。
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