猫系男子の甘い誘惑
 ここまでずっと二人分の引き出物を持ってくれたくせに、そんなことを言って彼は視線をそらす。
 
 たぶん、互いに言いたいことがあるはずなのに口に出すのをためらっている――そんな空気が二人の間にはあった。

 ほどなくして、倫子の注文したモスコミュールと、佑真の頼んだ生ビールが二人の前に並べられる。

「お疲れ様でした」
「ありがと。佑真もね」

 かちんと触れ合わされるグラス。ライムの香りと炭酸の清涼感が、渇いた喉を心地よく潤してくれる。この店では辛みの強いジンジャーエールを使っているから、よりすっきりとした喉ごしを堪能することができた。

(これで、終わり……終わってしまえば、意外と楽しかったかも)

 責任を取ると言っていた佑真とのつきあいは、今日で最後。彼は、十分以上に責任を果たしてくれた。

 話を持ちかけられた時、倫子が想定していたのとは少し異なる形だったけれど、こういう形でこの日を終えられるのであれば十分だ。

 グラスを空にして、目で合図する。心得顔のマスターがこちらへと歩み寄ってきた。
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