猫系男子の甘い誘惑
 それが、いつのことなのか倫子は思い出せなかった。少し前から、敦樹との間に違和感を抱えてはいたものの、倫子の方から切りだす勇気も持てなかった。

 だから、せめて敦樹といる時には彼に嫌われないようにしようと、必死に笑顔を作っていたような気がする。もし、その時の倫子を佑真が見ていたのだとしたのなら――。
(同情、されてもしかたないか)

 こうなると、自嘲の笑みしか浮かばない。あの頃も、別れた直後も。ひどい顔をしていたであろうことは今ならわかる。

「……佑真」

 グラスの中を一気に空にして、倫子は彼の名を呼んだ。

「いろいろと、ありがとう。でも……たぶんそれって同情だと思う。そんなので付き合うのはよくないと思うの」

 佑真は倫子より年下だ。間違いなく、これから先にもっといい出会いがある。
 なし崩し的にここ数か月は拘束してしまったけれど、これ以上彼を縛り付けているのは絶対によくない。

「私が、佑馬に甘え続けてたのもきっとよくなかったんだと思う。当初の約束は果たしてもらったし、もう……いいよ。ありがとう」
「俺は、そんな気持ちで言ってるんじゃ」
「今は、そうかもしれない。でも、きっともう少ししたら佑真の気持ちも変わってくると思うよ」
「こういう時だけ、年上ぶるんだ?」
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