夏祭りの恋物語(2)~林檎飴の約束~
林檎飴の約束
 歯を立てるとカリッと軽い音がして、飴のコーティングが崩れ、舌の上でしゃりしゃりとした甘いかけらが溶けて形を失っていく。次の一かじりで、コーティングに包まれていた真っ赤な林檎を味わう。林檎飴を包むコーティングの甘ったるさとは対照的に、角が立つほど酸味がある。

「酸っぱい……」

 私のつぶやき声は、夏祭りのざわめきにかき消された。

 神社の境内の外れにある木のベンチに一人で座って、参道沿いに並んだ露店やその間を歩く人々の姿をぼんやりと見下ろす。親子連れや友達グループの姿もあるけれど、浴衣姿の女性と甚平や洋服の男性のカップルが一番目立って多い。私みたいに一人で夏祭りに来ている人の姿を探して参道を見回したら、濃紺に白百合柄の浴衣の彼女を洋服の彼が木立に引っ張っていくのが見えた。

 やっぱり夏祭りに一人で来たのは間違いだった。

 空の藍が深く濃くなるにつれて、胸に寂しさだけが募っていく。

 やるせない思いのままもう一口林檎飴をかじった。尖った飴のかけらと甘酸っぱい林檎が舌の上に落ちる。しばらく黙々と林檎飴をかじっていたけれど、食べる気力を失って手を下ろした。そうして手の中の林檎飴をじっと見る。

「もったいないよね……」

 けれど、この残りの林檎飴をいつも食べてくれたあの人は、もういない。
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