嗚呼、親愛なるジキル様
馴れ初め

プロローグ

「僕と付き合ってください」


しんと静まり返った放課後の美術室。

恐らく彼女以上の人なんてもう現れないだろうからと挑んだ一世一代の大勝負。
極度の緊張から手汗をじっとりとかいた手とカラカラになった口内、バクバクと張り裂けそうなほど運動する心臓に落ち着けお前らと自分事ながら思った。

彼女は告白をされているにも関わらず今日も見事なまでの無表情だ。
ぱっと目を引く類まれなる美貌を持った彼女はしかし、鉄仮面と呼ばれるほどの無表情と一日中絵のことを考えてさえいれば幸せという考えから敬遠されてきた。

それでも彼女のファンは多く、どうにかして取り入ろうと虎視眈々と狙っているものも多かった。

かくいう僕もその一人だ。

彼女を理解しようと今まで興味なんてこれっぽっちもなかった美術鑑賞をするようになった。有名な美術館の場所を調べて見に行ったりもした。
しかし、それによったわかったのはどれだけ目を凝らして見てもやはり僕にはその楽しさも魅力もわからないということだけだった。

こんな僕なんて玉砕する未来しか……


「いいよ」


「…………え?」


「ただし」


「私、かなり特殊だけどそれでもいいなら」


「えっ、ちょっ、ほんとに?本当に!?いい!いいです!!特殊だろうとなんだろうと関係ないよ!!!」


「ならよろしくね、できれば見られてると描きにくいから今日のところは帰ってもらえると嬉しい」


「はっはい!!ありがとう!!」


その時熱に浮かされていた僕は、彼女の言った『特殊』の意味を深く考えもしなかった。

それを深く深く後悔することになるのは、まだ、少し後の話。
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