素顔で最高の恋をしよう
 だけど翌日、おはようございますと私に挨拶をする樹沙ちゃんは、いつもと違って笑顔がぎこちなかった。

「葉月さん。昨日は……すみませんでした」

「え?」

「私、動揺しちゃって……」

 どうやら昨夜の人物は彼女で間違いなかったようだ。
 だけど素直に本人が認めてくれたので、疑惑の部分が消えてモヤモヤが少しだけすっきりとした。

「今日ふたりでランチに行きませんか? そのとき昨日の件は詳しく話しますから」

 小さく肩を落として言う彼女に、私は静かにうなずいて了承した。

 樹沙ちゃんがそのときになにを告白してこようと、私はすべて受け止めようと思う。きっと事情があるに違いない。
 架くんが以前口にしていた“素顔の付き合い”というのを、私は彼女とは出来ているつもりだ。
 だからそんな泣きそうな顔をしないでほしい。

 大丈夫という意味を込めて、ポンポンと彼女の背中をさすったあと、私は席を立った。

 今は勤務時間中なので、仕事を優先に考えなくては。
 私は昨日のクライアントとの打ち合わせ報告のために、社長室に向かった。

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