横顔の君




(ふふふふ……)



家に戻っても顔のにやけが止まらなかった。



ちょっと照れながらも、私達は「照之さん」「紗代さん」と呼び合った。
「吉村さん」って呼ばれるのとはずいぶん違う。
くすぐったいような照れくさいような…



(でも、嬉しい…)



それに、今日は初めて夕食を一緒に摂った。
いつもは夕食前に別れるのに、今日はパレードを見ながら夕食をとって…
いつもより長い間、一緒にいることが出来た。



(あぁ、幸せ……)



結局、ほとんどアトラクションはやらなかったけど、それでも十分楽しかった。
もちろん、お土産の交換もした。



テーマパークのキャラクターのぬいぐるみ。
男の子のキャラクターを私がプレゼントして、女の子のキャラクターを私がもらった。
以前もらったラッコと並べて、ベッドサイドに置いた。



楽しかった思い出と共に品物も増えて行き、部屋の中にも、私と照之さんの記憶を思い起こさせるものが目に付くようになった。
ペンダントは、片時も離すことはない。



本当に毎日が幸せだ。
照之さんには好きな人がいるんだって思い込んで、悩んでたあの頃のことさえ、今では愛しい記憶になってる。



ただ…まだほんの少しだけ、以前の彼のことを思い出すことがある。
それは未練があるというわけではなくて…
私は好きになった相手を、とことん信じてしまうっていう苦い思い出と共に…



照之さんはあの彼とは違う…
あの時とは私の年齢も、照之さんと彼の年齢だって違う。
だから、あんなことはもうないとは思うのだけど、ふとした時に怖くなることがある。
いつか、また、裏切られてしまうんじゃないかって…



(ううん…彼は彼…照之さんとは違う。
私は照之さんを信じるわ…)



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