レインボウ☆アイズ

ずっと耳に心臓がある気がする。そして顔も熱い。
恥ずかしくて咲葉さんを見れずに、黙々と食べていると
「敦哉君は何か飲む?お茶でいい?」
咲葉さんが聞いてくれた。
「はい…。」
顔を上げて咲葉さんを見ると、いつもの笑顔。
自分の器の小ささが嫌になる。耳を触られたくらいで動揺して…。
ちゃんとしなきゃ、と思って俺は咲葉さんに言った。
「…ビール、足りてますか?ワインとかもあるって言ってました。」
「うん。大丈夫だよー。…でもワインも飲みたいかもー。」
『でも眠いかもー…』
咲葉さんの顔をよく見ると、とろんとした目。
テーブルを見ると、ビールの空き瓶が並んでいる。
「いや、やめておきましょう。ケーキもあるので、飲みすぎないほうがいいです。
 あ、アイスがいいですか?」
「ううん。ケーキがいい。でもワインも飲みたいなー。」
『お腹いっぱいだし』
すでに遅かったか…。
「ワインはまた今度にしましょう。」
そう言って立ち上がり、弁当を片付けていると修が来た。
「ごちそうさまでした。おいしかったですー。」
ご機嫌に咲葉さんは言う。酔って緊張が解けて、よかったかもしれない。
「食堂のものに、お伝えさせていただきます。」
そして、修は俺に言った。
「…お疲れのようでしたら、お部屋でお茶にいたしますか?」
「うん。そうしようかな。」
咲葉さんが眠くなったら、部屋で昼寝してもいいし…。
そう思って、少しドキドキする。
「咲葉さん、俺の部屋に行きませんか?」
「うん。行きたーい。」
『でもなんかエロい言いかた』
そうかな…。でも、他になんて言ったらいいだろう…。
飲ませすぎたことを後悔しつつ、咲葉さんの椅子を引く。
「じゃ、行きましょう。」
「うん。」
そう言って歩き始めた咲葉さんは、何だか千鳥足だ。
心配して見ていると、修が言った。
「敦哉様、手を取って差し上げてください。」
「うん。…咲葉さん、捕まってください。」
断られたらどうしようと思いながら、手を差しのべる。
「ありがとうー。」
『紳士だー』
咲葉さんはそう言って、手を置く。
いちいち喜んでくれるけど、咲葉さんも慣れているよな。やっぱり大人だ。
俺も手が触れたくらいで動揺せずに、堂々としないと。
…こういう時のために、パーティーに出ておけばよかったのかな。
でも、ああいうのに来る女の子は、人をモノみたいに見るから嫌だ。
せっかく咲葉さんと手を繋いでいるのに、つまんないことを考えてるな、俺は…。
螺旋階段をのぼって部屋に着くと、咲葉さんは声をあげた。
「…ひっろーい。うちより広いよー。」
そうなんだ。咲葉さんは、どんな家に住んでるんだろう。
行ってみたいな…。でも、言えない…。
「今度はうちにおいでって言おうと思ってたけど、これじゃ呼べないなー。」
咲葉さんが苦笑いしながら言う言葉に、俺はくらいつく。
「是非、行きたいです。」
「えー、狭くて敦哉君、苦しくなっちゃうよー。」
手を離して、窓に向かって歩きながら、咲葉さんは言う。
「俺、狭いところでも平気です。」
俺の体も言葉も、咲葉さんを追いかける。
「かびくさくて、アレルギー出ちゃうかもしれないし。」
「そんなの平気です…。」
なんとしても行きたいのに、なんて言えばいいかわからない。
駄々をこねるような言葉しか思い浮かばなくて、自分にがっかりする。
すると、咲葉さんが俺の顔を覗き込む。
『拗ねた顔してー』
「じゃ今度はうちで、一緒に何かごはん作ろうか。作ったことないでしょ。」
「…いいんですか?」
「いいよ。今日飲めなかったワインをお土産に、お願いします。」
「はい…。」
嬉しすぎて顔がにやけてしまう。…楽しみだなあ。
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