鬼に眼鏡
 雅夫は溜め息をついて、椅子から腰をあげると窓を開く。
「話したいんなら、玄関からこいって言ってるだろ……隣なんだから……」
 雅夫が開けた窓の先にいた人物――それは隣に住む同級生、幼馴染みの林玲奈であった。
 雅夫と玲奈の部屋は隣同士で、窓を開けるだけで、相手側の窓に触れることができる。
 だから、玲奈は話がしたいという理由で、時折、窓を叩いたりするのだ。
 そして今日も、顔を窓に突っ伏し、雅夫を呼んだのだろうが……。
 ふっと雅夫の脳裏に浮かんでいた。あの声、玲奈に聞こえたのではないかと。
「だって、歩くのめんどいんだもん……雅夫、面接どうだった? 手応えあった?」
 玲奈の第一声は雅夫の心配を、そのまま答えたような質問だった。
 しかし、最悪の結末を自分の口から言わなければならない。
 雅夫はいっそ、玲奈に聞こえてたほうが良かったんじゃないかと思い、深い息を吐く。
「今、電話あって不採用……だから、進路決まってる奴と付き合う暇ねーの!」
 雅夫は玲奈に言うと、少しでも嫌な話題を避けようと、窓を閉めるため手をかけた。
 すると、玲奈も同時に窓に手を掛けて、閉めさせないよう必死に抵抗を始める。
「うざっ! 開けるんじゃなかった! 冷やかしなら家に帰れ!」
「もう半分帰ってる! 買い物付き合って! 雅夫とどうしても行きたい所があるの!」
 窓の開け閉めを巡って、雅夫と玲奈の激しい攻防戦が続く。
 しかし、徐々に涙目になってきた玲奈を見て、雅夫が最終的に折れて争いは終了した。
「嫌だって言ってんのに! お前と買い物行って、ろくな思い出がないんだよ!」
 改めて、買い物に行く意思がないことを雅夫は主張する。
 雅夫が玲奈に買い物に誘われて、拒否したのには大きな理由があった。
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