いきなりプロポーズ!?
§4 ギャップは萌えるもの? 落ちるもの?
 時間になりホテルに戻る。氷点下の外気ではちょうど良かった防寒着もホテルのドアをくぐれば分厚いサウナスーツと化した。その重さも手伝ってちょっと歩いただけで汗が出る。“これを着ているだけでダイエットになります! いかがですかー!”というテレビショッピングのハイテンションなセールストークが頭の中をリフレインする。フードを後ろにはずし、達哉がかぶせたマスクをグローブで下にズリおろした。顔は涼しくなったが身体は暑い。

 午前3時、当然ながら奴も同じ部屋に戻る。着るのに手こずった防寒ジャケットはあっさりと脱げた。


「シャワー使えば?」
「えっ?」


 奴が顎でバスルームを指す。私が返事に躊躇していると、


「貧乳には興味ねえし。襲って欲しいなら襲うけど?」
「ふん!」


 私はオーバーオールを脱いでベッドに投げ、バスルームに向かった。蛇口を捻るとすぐにお湯は出てきた。服を脱いでシャワーを浴びる。目をつむるとさっきまで眺めていた星空が瞼に映し出された。綺麗だった。松田さんもあれを見たんだろうなって思うと嬉しくなるし、切なくなる。どうせなら、一緒に見て一緒に感動したかった。キレイだねって肩を寄せ合って、キスなんかもしちゃったりして。そうか。もし松田さんと一緒に旅行に来ていたら、結果は違っていたかもしれない。私といれば外国人旅行者と話す機会も減っただろうし、私と見ることで私との未来を強固なものにしてくれたかもしれない。ほら、一緒に何かを乗り越えると絆が強くなるっていうじゃないか。たとえばバンジージャンプ。渓谷に作ったつり橋で、結婚式代わりにタキシード&花嫁姿でバンジージャンプさせてくれるイベントを催す自治体もあったっけ。体験を共有するのは大切だ。

 でもあのときはオーロラごときに何十万円もの大金をたくことに抵抗があった。結婚資金に貯めたお金を婚前旅行に使うのはもったいないと思ったから。ドレスも作りたかったし綺麗なマンションにも住みたかったから。ああでもあのときにケチらずに一緒に旅行に来ていたら松田さんと結婚していたかもしれない、いや貯めておかないとドレスが作れないし新居も契約できない、いや一緒に旅行にいくべきだった、いやドレス資金、旅行、ドレス……頭の中で白いマーガレットは一枚一枚散れていく。



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