付喪がいた日
2.憑いてくるモノ
 帰宅してからも、蔵で見たのは幻覚だと必死に自分に言い聞かせる俺がいた。
 とにかく今は蔵から出してきた物を鑑定してもらうのが先だ。慌てて持ってくるしかなかった箱を親にばれないよう自室で開けながら、ネットで検索して価値がある物か調べる。けれど俺の雀の涙のような知識ではどうにもならない。
 金継ぎとか言っていたよな。そんなことを思い出して、調べると出た。
「割れた物をウルシで接着して金で装飾する方法か。価値がなくなるわけじゃないんだな」
 そんなことをしてしまったので、蔵であったことを思い出す。
 和服姿の赤目の少年。祖父の名前を知っていた。また遊びたいって、祖父と面識があったってことか?
 ひとつずつ木箱を開けていくと、最後に細長い箱が残った。風呂敷包みで覆い、紐で括っている箱だ。
 確か、この中には番傘が入っていた。価値がないだろうから処分しようと思って、置いてきたはずだ。どうやら荷物に紛れて持ってきてしまったらしい。
 物を運ぶ手段には適していない自転車で往復してきただけに、余計な物を持ってきたことに息を吐くしかなかった。
 かといって、父さんに車を出してくれと頼んでいたらどうだっただろうか。いや待てよ。骨董品って、両親の許可なしに売ることってできるのか。
 金に目が眩んでいたために大事なことまで頭がまわっていなかった。多分、親にばれたら怒られる気がする。儲けだって期待できない。
「急にやる気なくなってきたな」
 おまけに金にならない骨董品まで持ってきている。桐箱の包みを取って箱を開ける。赤い番傘を箱から出した俺は何となくそれを開いてみた。
 派手な音を鳴らして番傘が開く。柄にも墨で『雨造』と書いてあった。
「雨造って誰だよ……知らない人の名前を書くなんて、じいちゃんらしいけど。意味がわからないと、調べたくなってくるな」
 番傘をとじようとした時だ。不意に湿気のこもった風を感じた。室内なのに何故という妙な感覚と、晴天だったはずなのにという疑問が生じる。しかも雨が地面を叩くような音も聞こえてきた。
 カーテンをしめているので外の様子はわからない。今の時期の雨は豪雨になりやすいので、降ってきたのなら雨戸を閉めたほうがいい。番傘をとじて立ち上がり、窓を開けると、驚くことに雲ひとつない晴天が広がっていた。陽が傾きかけているのでアブラゼミの声がヒグラシに変わっている。
「空耳か?」
 それにしてもリアルな雨音だった。気温の変化もわかるような――
 そうだ。この感覚は蔵に入って赤髪の子供を見た時と同じだ。蔵に入る時には熱気を感じたのに、いつの間にか冷気を感じた、あの時と同じだ。
 再び背筋に寒気がはしる。俺は何かに取り憑かれてしまったのだろうか。それとも、この骨董品の中に曰く付きの物があるのだろうか。
 変なことを考えていては駄目だ。言い聞かせるように首を左右に振った俺は、番傘を桐の箱に入れて、持ってきた時と同じように風呂敷に包んで紐で括った。
 売ったら全額、自分の小遣いにしたかったが仕方がない。父さんに頼んで一緒に売りに行くしかないかという結論に達した。父さんは母さんよりも金銭面に厳しくないから、手に入る金額も高くなるだろう。そんな推測も踏まえてだ。
「百万までいってくれるといいな。売る前に父さんと分け前の交渉しておいたほうがいいか。さすがに百万単位になると、半分くれるとは思えないし」
 捕らぬタヌキの皮算用というが、俺は独り言をしながら笑みを浮かべてしまっていた。
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