最初で最後の嘘










「黒崎さんと吉川さんのところにも迷惑かけてるんだぞ」



「奏君と瑞希ちゃんも捜してくれたのよ。何時間も。あんた、どれだけ心配したかわかってる!?」



 両親の怒鳴り声さえ、耳を通り抜けるのに。


 二人の名前は嫌と言うほど耳にこびりついた。


 隣の現実が俺の顔を覗き込む。


 忘れるなんて許さない。


 逃げるなんて許さない。


 そうにっこり残酷に微笑む。



「……歩?」



「…………なぁ」



 自分だけが止まっていた時間。


 それを埋め合わせるために問うのだ。


 愚かだと俺の首を締め上げる現実が、俺の声さえも奪う。



「………………奏兄と吉川って付き合ってんのか?」



 そう。


 現実は容赦ない。



「何だ?お前、知らなかったのか。今さら……歩?」


 現実は容赦ない。


 逃げ出した罰を。


 逃げ続けた罪を。


 報いは受けるべきだと。




「……あ、あんた、どうしたの?」



「何が?」



「何が、って……変な顔して」



 困惑する両親の顔に、笑いたくなった。


 いや、トンマの俺を笑いたかったのかもしれない。





< 45 / 115 >

この作品をシェア

pagetop