最初で最後の嘘




 指輪なんか気にせず、涙を拭って抱きしめてしまえば良かった。


 突き放して、傷つけて。


 それでも、俺は彼女を忘れられない。



「……そうだ。俺は瑞希のことがずっと好きなんだ。奏兄と付き合うなんて認められない。許せない」



 丹羽の満足そうな空気とは正反対に、両親の冷たい諦めに似た空気を漂わせた。


 そして、きっぱりと言い切る。


 諦めなさい、と。



「瑞希ちゃんは大学を卒業したら結婚するそうだ。お前の気持ちは知ってる。けど、諦めろ」



 誰とは言わない。


 言わないのは親としての思いやりなのだろう。


 何故か、驚くこともなく事実をすんなり受け止められた。


 すんなり受け止める?


 いや、異常者には無理か。


 しかし、身体が動かないのだからどうしようもないのだ。



「なるほど。崖っぷちだね。……ところで、歩が目覚めたならお医者さん呼んだほうが良いのでは?」



 丹羽はそんなことを言ってナースコールを押した。


 そのブザー音が終わりの合図なのか、始まりの合図なのか。


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