トロンプルイユは甘く囁く
 面白い、と言って、殿様はその絵を認めた。
 が、やはり骸骨の目立つ絵は、部屋に飾るには不気味である。

 今日も屏風を開いてみたものの、殿様は少し眺めて、すぐに部屋を出てしまった。
 屏風は、朝芳が使っていた離れに置かれたままだ。

 殿様が出て行った後も、綾は絵を見つめていた。
 誰もいないのをいいことに、絵の間近で、しげしげと見る。

 綾は隅に描かれた自分よりも、骸骨のほうに見入っていた。
 骸骨に合わせて説明していた朝芳の手を思い出す。
 まるで朝芳が、絵の中に溶け込んだようだった。

 綾は、そっと移動して、骸骨の差し伸べる手の先、女子の絵の前に立った。
 屏風絵はほぼ等身大である。
 そこに立つと、まるで自分も絵の中の一人になった気になり、綾は絵の女子のように、骸骨のほうを振り向いた。
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