彼に惚れてはいけません
この男、疑惑多し
―この男、疑惑多し―
危険な男、吉野和也さんのことが頭から離れず、ほとんど眠れなかった。
映画を観た後のときめきに似ていた。
一瞬、現実か映画かわからなくなる。
私は夢のようなロマンチックな映画のヒロインを演じているだけなんじゃないか。
そんな気持ちになる。
彼は、どこにでもいる普通の男性なんだと思う。
ちょっとイケメンで、ちょっと優しくて、ちょっと危険だけど頼れる人。
私の愛する映画に出てくる男性のように完璧ではないし、よだれも垂らす。
だけど、どの映画よりも、私は今、この映画を気に入っている。
この主人公の女性は、どう成長するのか、楽しみで仕方ない。
「おい、佐々木。何、ぼーっとしてんの?」
苦手な同僚、中村亮司の登場で、私は現実に引き戻される。
中村さんは、キムタクに憧れ過ぎている為、ドラマでキムタクがやりそうなことをよくやる。
それがまた、全然様になっていない。
資料を丸めて、私の頭をポンっと叩いて、片方の口角を上げた。
「別に」
「別にってお前、沢尻エリカか!!」
とまた頭を叩く。
「それ、古いし、毎回言わないで」
「何か悩んでるなら、俺聞くよ?」
語尾を上げる話し方も苦手な理由。
自分を相当なイケメンだと勘違いしている様子。