御曹司さまの言いなりなんてっ!
とりあえず部長や次長が会社前に数人残り、「事情が分かったら、後で連絡するから」ということで、その場を解散した。
泣き出しそうになる不安感と必死に戦いながら、悶々と連絡を待ち続けた私に届いた情報は……。
『うちの会社が破産したのは紛れもない事実である』という、知りたくもない、知ってもどうにもならない事実確認だけだった。
本当に部長以下の役職者全員、今回の顛末はまったく知らされていなかったらしい。
大学生になったばかりの息子さんに、『父さん、俺大学辞めて働くから心配しないで』って言われて涙が出たって、部長が男泣きしていたから。
私だって同じくらいに切羽詰まっている。女泣きだわ。
家賃、どうしよう。食費は? 水道光熱費は?
もちろん多少の貯蓄はあるし、幸い失業保険も出るけれど、それは言ってみれば時限爆弾みたいなもの。
いずれゼロ地点へ向けてじわじわとカウントダウンしていくという、とてつもない恐怖感がある。
そんな社員たちの窮状を尻目に、誰にも知られずコソコソと自己破産手続きをしていた憎っくき社長は、雲隠れ。
説明会が開かれる事もなく、放り出された私たちは途方に暮れるばかりだった。
本当に信じられない! 地道で誠実な商いを続けていた先代と先々代が、草葉の陰で泣いているわよ!