思いは記念日にのせて

 その後、簡単な自己紹介が始まった。
 わたしの隣の美人さんが一番はきはきしていて、名前を清川美花さんという。名は体を表してるなあ。
 一応みんなの名前や特徴を簡単にメモして自己紹介は終了。
 霜田さんが研修の説明をはじめ、みんなそれに耳を傾けながらメモを取っているけど、わたしはメモを取る振りをして霜田さんから目が離せなかった。

「出水さんはどんな社会人になりたいの?」

 急に笑顔の霜田さんに振られ、驚きのあまり立ち上がりそうになってしまう。
 そんなこと聞かれると思わなかったから何の答えも用意してなくて、頭の中は軽くパニックを起こしていた。

「えっと、わたしを見た人が元気になってくれるような……」
「……」

 数秒の沈黙の後、班全体でぷっと吹き出し笑い。
 あれ、わたしなに言ってるんだろう。これじゃまるで子供の自己紹介だよ。
 穴があったら入りたいってこういうことを言うんだよ。ああー。

「確かに、そういう人って職場に必要だよね」

 霜田さんの声にはっと顔を上げると、頬杖をついてニコニコしている。
 つられるように「そうですね」と同調の声まで。 

 ずっともう一度話してみたいと思っていた。
 採用通知が届いた時、うれしくて涙がでたくらい。

 その人が目の前にいる事実が信じられなくて、すでに目が潤みそうだった。
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