強引上司の恋の手ほどき
プロローグ


《プロローグ》


「お前の悩み、俺が全部解決してやるよ」


その人の手をとってしまった、その時から私の本当の恋が始まったのだと思う。

それは、入社六年目——私、菅原千波(すがわらちなみ)に訪れた遅すぎる初恋だった。


***


「千波、今日仕事終わり一緒に帰れる?」

食堂で日替わり定食を食べていた私の前に、長身の柔らかい笑顔の男性が現れた。

「中村くんっ! は、はいっ! あの、その……大丈夫です」

大丈夫と答えたものの、食堂にいる周りの人の視線が集まってきていたたまれない。

「あははは……なんで敬語? まぁいいけど、仕事終わったらメールするから、それまで待ってて」

大きな体をかがめて中村くんが私にだけ聞こえるように話すと、そのまま食堂を出て行っ
た。

「ちょ、ちょっと。千波、もしかして……」

隣でオムライスを食べていた金子美月(かねこみづき)先輩がテーブルにスプーンを置いて驚いた様子で私を尋問する。

「あの、そのもしかして……デス」

「アンタ! 中村くんと付き合ってるの?」

周りの女子社員の視線がいっせいに私に向いた。突き刺さる視線に耐えながら暴走する美月さんを必死でなだめた。
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