強引上司の恋の手ほどき
俺は千波の前髪をそっとかきあげるとそこに小さなキスを一つ落とした。

「それより、ふたりだけのときも課長って呼ぶつもりか?」

「え……変ですか?」

「仕事中に部下と悪いことしてるみたいで嫌だ。郡司って呼んでみろよ」

「そ、そんな急に!」

名前を呼ぶだけなのに、顔を真っ赤にしている千波がおかしくてついついからかってしまう。

「じゃあ、呼ばなくてもいいけど、その代わりお前からキスして」

「き、キス!!」

目を皿のようにして驚くのを見て、思わず吹き出しそうになってしまった。

「さぁ、優しい俺はふたつ選択肢を出してやったぞ。ほら、どっちにするんだ。俺はどっちでもいいぞ」

追い詰めると、真っ赤な顔して「郡司さん」とつぶやいた。

ちらっと無意識の上目遣いで俺を見る姿は、誘っているとしか思えない。

「よくできました。じゃあ、キスは俺からな」

千波の返事なんて待っていられない。やっと自分の中に囲い込んだ悩める子羊を、散々かわいがって甘やかしてやるつもりだ。
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