動き出した、君の夏

画面に、裕樹のキャッチャーミットを見つめる夕が映った
次に瞬間は、T校のバッターの後ろで、ミットの下で夕にサインを出す裕樹が見えた

夕は頷いて、左足を持ち上げた

《ピッチャー村松。振りかぶって――投げた!》

ばしんっ

《アウトォォーーっ!!3アウトです!!》

T校の選手がバットを大きく空振りした
すぐ後ろで、裕樹のミットが夕の投げたストレートをしっかり受け止めていた

夕が笑顔で裕樹と一緒にベンチに走っていった
夕の後姿の画面で、アナウンサーが語りまくった

《エース村松は春のセンバツの後に左手首を怪我しまして地区大会はベンチから外されたそうですが、ようやくいつもの調子が戻ってきましたね》
《そうですね。これから益々（ますます）キレがよくなってくると思いますよ》

3回表。ウチの攻撃
1番バッターの裕樹が出てきた
笑顔でバットを振り回して2、3回素振りをした


へぇ…凄いなぁ
裕樹、すっごい笑顔だ
さっき三振を取った夕の顔だって、明るかったし


「…あ、もう現地コール行った方がいんじゃない?」
『…うん。そうだね』

ぎゅっと両手を握って立ち上がった

「どーよ、腹は?」

後ろから、瑞希の声がした

そうじゃん。何テンパってんだ

『…うん。大丈夫!』

振り返って、笑った
なるべく、自信がありそうな顔で

『全国制覇、目指します!!』
「よっし!頑張って!」
「千夏センパイファイト!!」
「って高田もハードルだろうが；」