【お題・お菓子掌編集】ふるーつ・ぐみ
１．バニラエッセンス
【お題：アイスクリーム】
※この作品は一人称独白の日記形式作品です。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あのね、一か月前にアイスクリームをつくる機械を買ってもらったんだ。
ドラムっていう金属の入れ物を冷とう庫に入れておくと、それが冷えてアイスクリームができやすくなるんだって。
桃香(ももか)はね。お母さんにそう教えてもらったんだよ。
あ、ドラムを冷やしているあいだに、材料の準備をしなきゃいけないんだった。材料は牛乳と卵の黄身と生クリームと砂糖、かき混ぜたら最後にバニラエッセンス。
すう時間たったら、冷えたドラムの中に材料を入れて、アイスクリームをつくる機械にセットするんだよ。
桃香が買ってもらったのは手でつくるのだから、ちょっと大変。はやく回すのがコツなんだって。空気がたくさん入ったほうが、やわらかいアイスクリームができあがるんだ。
桃香のつくるアイスクリームはいつも硬い。きっと回すスピードが遅いんだね。お母さんのつくるアイスクリームは、いつもやわらかくておいしい。きっと、回すスピードがはやいんだよ。
アイスクリームをつくる機械を買って一週間後。
お母さんがインフルエンザになっちゃったんだ。高いお熱が出て、薬を飲んでもなかなか元気にならなくて。だから桃香は考えたんだ。アイスクリームは冷たいから、きっとお熱がはやくさがるだろうなって。
教わったとおりに材料を入れてハンドルを回す。いつもより頑張ったんだよ。だけどね、味見したら、やわらかいんだけど、ちょっと変な味がしたんだ。それでもお母さんはおいしいって食べてくれた。
桃香はよくわからなかったけど、バニラエッセンスの入れすぎだったみたい。ちょっとでいいのに、もっとおいしくしようとして、たくさん入れちゃったんだ。
でもね、おいしくないのに、お母さんね。おいしい。もっと食べたいなっていってくれたんだよ。
うーん、お母さんにはおいしかったのかな。桃香には、あんまりおいしくなかったんだけどな。
アイスクリーム食べたら元気になったっていってくれたし、桃香がんばってよかったよ。
けど、ちょっとつらそうにしていたのは気のせいかな。元気になったっていってくれたから、気のせいでいいんだよね。
今度はおいしいのきっとつくるよ。お母さんがかくし味を教えてくれたんだから。
でもね、お母さんのインフルエンザが治ったと思ったら、今度は桃香がインフルエンザになっちゃったんだ。高いお熱が出て、薬を飲んでもなかなか元気にならなくて。だから、お母さんは考えてくれたんだね。アイスクリームは冷たいから、きっとお熱がはやくさがるだろうなって。桃香と考えることが一緒だ。
お母さんのつくってくれたアイスクリーム。たくさん回したからだね。やわらかくて、すごくおいしい。桃香のつくったような失敗作じゃないし、桃香のよりおいしいのは、きっとかくし味を入れたからだよ。
お母さんが桃香に教えてくれた、かくし味はスキムミルクなんだ。けどなんでかな。お母さんはアイスクリームを食べてすぐに治ったのに、桃香のお熱はなかなかさがらなかったんだ。
桃香の時は、バニラエッセンスをたくさん入れたからかな。よくわからないから、お母さんに聞いたら、それは桃香が一生懸命つくってくれたからだよって、いってくれたんだ。
そうだと思う？ よくわからないや。けど喜んでいいんだよね。
でね、桃香がしばらく休んでいたら、隣に住んでいる亮輔(りょうすけ)お兄ちゃんが、お見舞いにきてくれたんだ。
うつすといけないから、しょうじをしめてお話ししたんだよ。そうしたら、亮輔お兄ちゃんも一週間ちかく学校をお休みしたんだって。おかしいな。お母さんは二日で治ったのに。
けど桃香もお熱がでてから五日たってる。はやく治んなきゃって思うのに、体がいうことをきかないんだよね。
それでも六日目にはだいぶ良くなって、お医者さんにも幼稚園にいけるねっていってもらえたんだ。
うーん。お母さんに心配かけちゃったな。
そう思って桃香はお母さんにごめんねっていったんだ。そうしたら、お母さんもごめんねって。よく意味がわからないから、なんでって聞いたよ。
するとお母さんね。桃香の頭を撫でて、こういってくれたんだ。
桃香が看病してくれから、お母さんははやく治ったんだよ。きっと、桃香にインフルエンザが全部、いっちゃったんだね。ごめんねって。
ああそうか。お母さんが二日で治ったのは、桃香がインフルエンザをもらったからなんだね。苦しかったけど、お母さんが笑っていて元気なら桃香はそれでいいや。
お母さん。おいしいアイスクリーム、またつくってね。
桃香もがんばっておいしいアイスクリームつくって、またお母さんに食べてもらうよ。今度はきっと大丈夫。元気だし、たくさん回すし、かくし味も教わったから。
それに、桃香のアイスクリームはインフルエンザも倒しちゃうんだもんね。お母さんの味には負けちゃうけど、そこだけは自慢だよ。
あとね、お母さん。亮輔お兄ちゃんにこの話をしたら、「お母さんのインフルエンザがすぐに治ったのって、絶対に違うぞ」って言っていたんだけど、どういうことかなあ？
ねえ、笑って返すだけじゃわかんないよ。桃香の優しさが薬？ 本当？
桃香のバニラエッセンス。今度はたくさん入れないようにするね。やっぱり、おいしいアイスクリームのほうが好きだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あなたは、桃花のお母さんがした優しい嘘に気づきましたか？
亮輔お兄ちゃんは知っているようです。
※この作品は一人称独白の日記形式作品です。
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あのね、一か月前にアイスクリームをつくる機械を買ってもらったんだ。
ドラムっていう金属の入れ物を冷とう庫に入れておくと、それが冷えてアイスクリームができやすくなるんだって。
桃香(ももか)はね。お母さんにそう教えてもらったんだよ。
あ、ドラムを冷やしているあいだに、材料の準備をしなきゃいけないんだった。材料は牛乳と卵の黄身と生クリームと砂糖、かき混ぜたら最後にバニラエッセンス。
すう時間たったら、冷えたドラムの中に材料を入れて、アイスクリームをつくる機械にセットするんだよ。
桃香が買ってもらったのは手でつくるのだから、ちょっと大変。はやく回すのがコツなんだって。空気がたくさん入ったほうが、やわらかいアイスクリームができあがるんだ。
桃香のつくるアイスクリームはいつも硬い。きっと回すスピードが遅いんだね。お母さんのつくるアイスクリームは、いつもやわらかくておいしい。きっと、回すスピードがはやいんだよ。
アイスクリームをつくる機械を買って一週間後。
お母さんがインフルエンザになっちゃったんだ。高いお熱が出て、薬を飲んでもなかなか元気にならなくて。だから桃香は考えたんだ。アイスクリームは冷たいから、きっとお熱がはやくさがるだろうなって。
教わったとおりに材料を入れてハンドルを回す。いつもより頑張ったんだよ。だけどね、味見したら、やわらかいんだけど、ちょっと変な味がしたんだ。それでもお母さんはおいしいって食べてくれた。
桃香はよくわからなかったけど、バニラエッセンスの入れすぎだったみたい。ちょっとでいいのに、もっとおいしくしようとして、たくさん入れちゃったんだ。
でもね、おいしくないのに、お母さんね。おいしい。もっと食べたいなっていってくれたんだよ。
うーん、お母さんにはおいしかったのかな。桃香には、あんまりおいしくなかったんだけどな。
アイスクリーム食べたら元気になったっていってくれたし、桃香がんばってよかったよ。
けど、ちょっとつらそうにしていたのは気のせいかな。元気になったっていってくれたから、気のせいでいいんだよね。
今度はおいしいのきっとつくるよ。お母さんがかくし味を教えてくれたんだから。
でもね、お母さんのインフルエンザが治ったと思ったら、今度は桃香がインフルエンザになっちゃったんだ。高いお熱が出て、薬を飲んでもなかなか元気にならなくて。だから、お母さんは考えてくれたんだね。アイスクリームは冷たいから、きっとお熱がはやくさがるだろうなって。桃香と考えることが一緒だ。
お母さんのつくってくれたアイスクリーム。たくさん回したからだね。やわらかくて、すごくおいしい。桃香のつくったような失敗作じゃないし、桃香のよりおいしいのは、きっとかくし味を入れたからだよ。
お母さんが桃香に教えてくれた、かくし味はスキムミルクなんだ。けどなんでかな。お母さんはアイスクリームを食べてすぐに治ったのに、桃香のお熱はなかなかさがらなかったんだ。
桃香の時は、バニラエッセンスをたくさん入れたからかな。よくわからないから、お母さんに聞いたら、それは桃香が一生懸命つくってくれたからだよって、いってくれたんだ。
そうだと思う？ よくわからないや。けど喜んでいいんだよね。
でね、桃香がしばらく休んでいたら、隣に住んでいる亮輔(りょうすけ)お兄ちゃんが、お見舞いにきてくれたんだ。
うつすといけないから、しょうじをしめてお話ししたんだよ。そうしたら、亮輔お兄ちゃんも一週間ちかく学校をお休みしたんだって。おかしいな。お母さんは二日で治ったのに。
けど桃香もお熱がでてから五日たってる。はやく治んなきゃって思うのに、体がいうことをきかないんだよね。
それでも六日目にはだいぶ良くなって、お医者さんにも幼稚園にいけるねっていってもらえたんだ。
うーん。お母さんに心配かけちゃったな。
そう思って桃香はお母さんにごめんねっていったんだ。そうしたら、お母さんもごめんねって。よく意味がわからないから、なんでって聞いたよ。
するとお母さんね。桃香の頭を撫でて、こういってくれたんだ。
桃香が看病してくれから、お母さんははやく治ったんだよ。きっと、桃香にインフルエンザが全部、いっちゃったんだね。ごめんねって。
ああそうか。お母さんが二日で治ったのは、桃香がインフルエンザをもらったからなんだね。苦しかったけど、お母さんが笑っていて元気なら桃香はそれでいいや。
お母さん。おいしいアイスクリーム、またつくってね。
桃香もがんばっておいしいアイスクリームつくって、またお母さんに食べてもらうよ。今度はきっと大丈夫。元気だし、たくさん回すし、かくし味も教わったから。
それに、桃香のアイスクリームはインフルエンザも倒しちゃうんだもんね。お母さんの味には負けちゃうけど、そこだけは自慢だよ。
あとね、お母さん。亮輔お兄ちゃんにこの話をしたら、「お母さんのインフルエンザがすぐに治ったのって、絶対に違うぞ」って言っていたんだけど、どういうことかなあ？
ねえ、笑って返すだけじゃわかんないよ。桃香の優しさが薬？ 本当？
桃香のバニラエッセンス。今度はたくさん入れないようにするね。やっぱり、おいしいアイスクリームのほうが好きだから。
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あなたは、桃花のお母さんがした優しい嘘に気づきましたか？
亮輔お兄ちゃんは知っているようです。
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