あの日とあの場所に

10畳くらいの広さの部屋の中は担任の後藤先生、教頭先生、里菜、クラスメイトなど、15人くらいのクラスメイトが集まってとてもしんみりしていた。ハンカチで顔を隠したりして皆泣いていた。

俺のために泣いてくれるのはうれしいが心がすごく痛い。死んでしまったじいちゃんも「死んだら笑顔で送ってくれ」と言っていたがその気持ちが今わかった。

 斗真は下を向いてうつむいている里菜のもとに寄り「里菜、ちょっといい?」と話しかけた。

里菜は顔をあげた。目は真っ赤。もちろんこんなに泣く里菜は初めてだ。斗真は「こちらは敬の友人の今井晴翔君」と俺を紹介した。

 「初めまして、敬のクラスメイトの三森里菜です。」

里菜は鼻をすすり言った。 

「初めまして、今井です。」

 俺は里菜の顔を少しそらしながら自己紹介をした。こんな里菜を見るのは辛い。

「あの…いきなりで申し訳ないのだけど、なんで敬がこうなったのか教えてくれないか。…」

 すると斗真と里菜はうなずきながらあの事故の後を教えてくれた。



2人の話しによると俺は後頭部をバットで打たれ、そのまま意識不明のまま病院に送られ、2日後に亡くなり、今日であの事故から4日がたったそうだ。喧嘩していた凌は2週間の自宅謹慎、俺をバットで殴った和馬は警察から事情聴取を受けているらしい。和馬はこのまま退学処分が確定していると言った。2人の喧嘩の原因はわかっておらず、彩花が関係していることは確かだ。

 『だいたいテメーが悪いんだろうが』
あの時和馬が彩花に向けて発した言葉が今でも頭から離れない。
そういえば彩花の姿が見当たらない。

周りを見渡してもいない。しかし今、斗真や里菜に聞いても怪しまれる…。

「そういえば彩花は?」

 ナイスだ斗真。

 「彩花はさっき帰った。ううん帰らせた。ちょっと心配だから」

そうかー帰ってしまったのか。でも里菜の気遣いは相変わらず素晴らしいな。 

 「じゃあ私も帰るね」

 「送ろうか?」の斗真の言葉に「大丈夫」と答えて立ち上がった。

 「じゃあね今井君、斗真。あ、敬にも言ってこないと」

 そう言って部屋から出て行った。

 あ、まだ自分の体見ていないわ。





棺の中にはもちろん自分がいた。頭には包帯が巻かれ眠っているかのようだった。

はぁ~なんで死ぬかな俺…

このままどうすればいいんだ?明日は火葬だそうだ。さすがに焼かれる自分を見るのは辛い。
帰ろと思ったがまだ「晴翔」の詳しいことがわかってお、ず、今日はその辺に泊まって明日そのまま帰るか。
山口に。
…ん?
本当に山口から来たのか?
このまま今井晴翔として生きなければならないのか?
そんな思いが今になって次々と出てきた。

色々な疑問が脳裏をよぎる。斗真や里菜、そして彩花も別れなければならないのか?いやでも本当の俺は死んでいるのだからどっちにしても別れはあるだろう。

そうだ。「晴翔」の家に行けば何か判るかも知れないと信じて山口に行こう。
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